山と鉄

山歩き、乗り鉄、廃線・廃道歩き、廃村歩き、駅舎探訪などの日々を記録します

木ノ根峠

千葉県には高い山がない。最高峰は標高わずか408mの愛宕山(南房総市)である。
都道府県別の最高峰としては、最も低い。

でも、今回、富山や杉ノ木峠を歩いてみて、千葉の山は怖いと思った。
この季節、奥多摩や丹沢の山は木々の葉が落ちて、見通しがいい。日は高くないが、光は地面までよく届いて、明るい感じがする。
それに比べて、温暖で常緑広葉樹の森で覆われている房総の山は夏と変わらない鬱蒼とした雰囲気を残している。
立ち入り難いのである。意を決して足を踏み入れても、暗い。
北国育ちの私には見たことのない植物が、たくさんある。不気味なのだ。
だから、どうにもビクビクした山歩きになってしまった。

富山を下った後は、那古船形まで足を伸ばして、那古観音にお参りするつもりだった。
内房線、外房線を通じて、大正時代に建てられた木造の駅はみな、海を意識してか、屋根も壁も青の色調で統一されている。その中でも、那古船形駅はなつかしい車寄せのある名建築だ。

名駅舎を訪ねて、その周辺を散歩するのを、勝手に「駅旅」と名付けて楽しんでいるが、今回は山歩き+駅旅コラボのプランだったのだ。

でも、富山を歩きながら、地形図を見ていて、気になる峠を見つけた。
木ノ根峠
合併して南房総市になる前の富山町と富浦町を結ぶ峠で、明らかに古い街道の匂いがする。

二つの町の境界あたりの海岸線は断崖絶壁になっており、江戸時代にはろくな道がなかったはず。
おそらく舟で行き来したことだろう。
陸を通るなら、丘陵の低いこのあたりでおかしくない。

さっき、駅の観光案内所でもらった観光マップの裏をよく読んでみると、はたしてそうだった。
「安房でも代表的な峠の一つで史書などの記録も多い」とある。
峠にはかつて2軒の茶店があり、安藤広重や十返舎一九、松平定信らも越えたらしい。

行くしかない。
富山を下山し、富山中学校前の分岐で、水仙遊歩道に向かうハイカーたちを見送り、ひとり南に向かう。
ふもとの集落は高崎という。

このあたりは、立派なイヌマキの生け垣の家が並ぶ。これも、房総独特の景観だ。
3mに達するような要塞のような生け垣も時々見かける。
DSC_2927.jpg

内房線の線路をわたると、すぐ左手の崖にやや小ぶりのやぐらが掘ってあった。
DSC_2932.jpg
浦賀水道をはさんで、三浦半島と房総半島南部を中心に分布する中世の墓地兼供養施設である。
ここのは奥壁に仏像が浮き彫りにされている。

まもなく、右手に湯谷堂が見える。
DSC_2937.jpg
ここには小林一茶の句額があるというが、外からはよく見えなかった。

それにしても、このあたりの墓地には、色とりどりの花がたくさん供えられている。
春のお彼岸もまだまだ先だと言うのに、山の暗さに反して、墓は明るい。
こんな風景にも、房総は「花の里」なのだなあと、改めて思う。

しばらく行くと車道は尽きて、登山道となる。
「旧木ノ根街道」という古い標識があった。
その隣に「房州低名山・木ノ根峠コース」ともある。ハイキングコースになっているようだ。
DSC_2949.jpg

しかし、登り始めて、びっくり。
とても昔の街道とは思えない細い道で、しかもいきなりジグザグの登り。
先日発表した説(昔の街道は勾配もゆるやかで道は広い)は早くも撤回しなければいけないのか、と思っていたら、間もなく道は落ち着きを取り戻し、自説の撤回は免れた。

帰りに、電車の中で検索してみたところによると、頼朝の時代にはすでにこの峠は開かれていた。
明治18年、東側に木ノ根隧道が、大正7年に内房線が開業すると、この峠道は徐々に廃れてしまったようだ。

峠には登り口から10分程度で着く。ここからの眺めはすばらしい。
眼下には砂浜の岩井海岸が広がり、浮島の向こうに三浦半島も見える。
広重が「絶景なるかな」と感嘆したらしいが、むべなるかなである。
DSC_2966.jpg
(中央の島が浮島)
いやあ、来てよかった。

峠は切通状にやや削られており、石仏が2体(1体は頭が欠けている)、道普請を記念した江戸期の石碑(写真上段左)などが残り、往年の峠らしい雰囲気がうれしい。
DSC_3000.jpg
左に茶店跡という矢印の標識があったが、どこが茶店跡なのかは現地に標識がなく不明だった。
水を貯めた跡があったので、そこなのだろうか。

それにしても、「木ノ根峠 171.0m」という標識があったが、これは明らかに間違っている。
地形図によると、その標高はもう少し南にあるピークの高さであり、峠の標高は地形図上は140~150mの間である。
観光パンフには156mとあるが、この根拠もよく分からない。

「冷水ピーク方面 左へ」という新しい標識があるので、踏み跡を進んでみた。
そうすると間もなく北側にまた視界が開かれ、雄大な景色が広がった。
ここが「冷水ピーク」とのことだが、標高は分からない。やはり地形図上は150mに満たない。
DSC_2993.jpg
でも、岩井駅を出発した内房線を眺めることもできた。

さて、峠に戻る。すでに2時半を過ぎている。那古観音に行くには来た道を引き返さないと時間が足りない。
しかし、ピストンは嫌いだ。
よし、今回は那古観音は諦めた。峠は越えないと意味がない。頑張って、富浦駅まで歩くことにした。

が、富山側と違って、富浦側は道が悪い。倒木も多いし、ほとんど人の手が入っていない気がする。
峠を越えたとはいえ、しばらく緩やかな登りが続く。本当の峠はもう少し奥だった。
まあ、それはいいのだが、どんどん道が悪くなる。というか、分からなくなる。

ルートファインディングと言うと大げさだが、正しい道を維持するにはそれなりの注意が必要だ。
途中、地形図上の道は尾根の左に下っていくのに、踏み跡は尾根の右に続いている箇所があった。
尾根は見えているので、しばらく踏み跡に従っていたが、トラバースしている斜面もきつくなり、踏み跡も細くなる一方なので、思い切って、もう一度尾根に戻った。すると、そこが旧道だった。

ホッとする間もなく、その道が土砂崩れで寸断されている。
これを越えたが、その先の道がはっきりしない上に、前方にはヤブが立ちはだかるばかり。
やむなく、手前の斜面をまっすぐ下る。幸い、県道が見えていたので安心だった。
同じ目にあった人がいるのだろう、誰かが下った痕跡がある。

県道にたどり着いた時には、体中、枯れ葉だらけだった。
3時15分。ここでもう一度、思案する。
この道を富山方面に戻れば、明治18年に掘られたというトンネルを見ることができる。
しかし、この時点で、そのトンネルが明治の隧道とは知らない。ただ、なんか怪しいとは思っている。
そういう状況だ。

結局、当初の方針通り、前進と決めた。
房総の田舎の集落をきちんと見ておきたかったのだ。
富浦駅までに「丹生」という集落がある。これが目当てだ。

集落というより、沿線そのものが非常に興味深かった。
富浦は日本一の「びわの里」だという。
沿線にも「○○びわ園」という看板がたくさんある。にもかかわらず、びわの木が一本もない。

あれ? びわって木になるんじゃなかったっけ?
だが、謎はすぐ解けた。みんなビニールハウスの中に収まっていたのだ。
DSC_3040.jpg

もうひとつ、謎が・・・
このあたり、びわの他にソテツも栽培している。
DSC_3013.jpg
これ、食用とは思えない。何に利用されているんだろう。

道を歩いている人がいれば、聞いてみるのだけど、誰もいない。
こればかりは「?」のまま帰るしかなかった。
でも、またしても検索でなんとなく分かった。

そのまま観葉植物として販売しているようだ。
やはり南房総はソテツの産地で、そこそこ育ったものが3~5万円で売られている。
貫禄のある姿になるには何十年もかかるようで、そういうのは何十万円もするらしい。

房総は東京に近いという地の理はあるにしろ、いろんな工夫をして農村はなんとか成立しているんだな。
来て、よかった。

温かい気持ちになって、富浦駅に着いたのは4:15。
DSC_3067.jpg
22分の特急があったが、特急料金をケチって、5:12の普通にのることに。
まだ1時間あるので、駅前の中華やさんで、ラーメン・チャーハン定食で腹ごしらえ。

帰りの電車は、花摘みのお客さんで超満員。一席だけ空いていた席にねじりこみ、爆睡して帰りました。

山は怖いけど、里は明るい房総の旅でした。














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